法律分野に特化したAIエージェント「Harvey」を解説!

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法律分野に特化したAIエージェント「Harvey」を解説!

シリーズDで3億ドル(約450億円)を調達し企業価値30億ドル(約4500億円)に達したHarvey。この法律分野向けAIプラットフォームが2025年3月末に新たなエージェント機能を導入します。この機能は単なるAIモデルを超え、計画立案・適応・対話能力を備えたワークフロー型エージェントとして専門家の業務をサポート。法律文書の作成や分析において、弁護士と同等あるいは上回る品質の成果物を生み出すことが実証されています。本記事では、Harveyが定義するAIシステムの種類と、急成長する同社の新機能がもたらす業務変革の可能性について解説します。

Harveyが3億ドル調達、急成長する法律テック市場の中心へ

2025年2月、法律分野に特化したAIプラットフォーム「Harvey」が、シリーズDラウンドで3億ドル(約450億円)の資金調達を実施したことを発表しました。このラウンドはシーケイア・キャピタルがリードし、既存投資家のクライナー・パーキンス、GV、イラド・ギル、コンビクション、OpenAIスタートアップファンドに加え、新規投資家としてコーチュー、そしてレクシスネクシスの親会社RELX GroupのベンチャーキャピタルアームであるREVが参加。企業価値は30億ドル(約4500億円)に達しました。

2024年、Harveyは年間経常収益(ARR)を4倍に成長させ、顧客数も40社から米国トップ10法律事務所の過半数を含む42カ国235社へと拡大。法律・専門サービス業界では、弁護士たちがかつてない速さでテクノロジーを採用し、何世紀も続いた法律事務所が新しいビジネスモデルを試み、企業がAI活用ワークフローで大幅なコスト削減を実現するなど、変化のスピードが加速しています。

このような急成長を背景に、Harveyはこのたび次世代のAIエージェント機能を自社プラットフォームに実装。

複雑な知的業務における課題解決を支援し、専門家がより高い付加価値を生み出す業務に集中できる環境を提供します。この投資により、プラットフォームの改善、エージェンティックワークフローの拡充、統合されたエンタープライズユースケースの構築、そしてチーム拡大を継続していく考えです。

Harveyの統合プラットフォーム:4つの主要機能

Harveyは単なるAIチャットボットではなく、法律事務所や専門サービス提供者、そしてフォーチュン500企業のための領域特化型AIプラットフォームです。同社のプラットフォームは以下の4つの主要機能で構成されています。

1. Assistant(アシスタント):専門知識に合わせたパーソナルアシスタント

Harveyの「Assistant」は、ユーザーの専門領域に合わせてカスタマイズされたパーソナルアシスタントです。自然言語を使って複雑なタスクを委任できるため、専門家は煩雑な作業から解放され、本来の高度な判断業務に集中できます。このたび導入されるエージェント機能によって、さらに高度なタスク処理が可能になります。

2. Knowledge(ナレッジ):迅速な調査と根拠に基づく結果

「Knowledge」は、法律、規制、税務など複数の専門領域にまたがる複雑な調査質問に対して、正確な引用付きの回答を提供します。情報の信頼性が重要視される法律業界において、この機能は特に価値が高いと言えるでしょう。迅速な情報収集と、根拠に基づいた確かな回答を両立させることで、専門家の意思決定をサポートします。

3. Vault(ボールト):安全なプロジェクトワークスペース

「Vault」は、数千もの文書をアップロード、保存、分析できる安全なプロジェクトワークスペースです。強力な生成AIを活用して大量の法律文書を効率的に処理し、必要な情報を素早く抽出することができます。顧客データの機密性が極めて重要な法律分野において、セキュリティを確保しながらAIの力を活用できる点が大きな強みとなっています。

4. Workflows(ワークフロー):業務の効率化

「Workflows」は、今回詳しく紹介したエージェント機能を活用したもので、専門家と協力して正確で目的に合った成果物を提供するために設計されたマルチモデルエージェントです。複数のAIモデルを組み合わせ、各タスクに最適化されたワークフローを構築することで、複雑な法律業務をスムーズに進めることができます。

Harveyが定義するAIシステムの4つの要素

Harveyでは、AIシステムを4つの概念で定義しています。これらを理解することで、新しいエージェント機能の位置づけが明確になります。

1. モデル(Model):AIの基本構成要素

GPT-4oやo1などの個々のAIモデルは、基本的な構成要素です。単一のプロンプトに対して単一の応答を生成するのが特徴です。これは最もシンプルなAIの利用形態と言えるでしょう。

2. モデルシステム(Model System):複数の要素を組み合わせた仕組み

複数のモデルに、検索ツール、RAGデータベース、その他の機能呼び出しなどのタスク特化型ツールや知識ソースを組み合わせたものを「モデルシステム」と呼びます。モデルシステムは基本的に固定された一方通行の流れで、あらかじめ設定されたモデル呼び出しと情報受け渡しを線形的に処理して結果を生成します。

3. エージェント(Agent):柔軟かつ強力な問題解決アプローチ

「エージェント」は、モデルシステムよりも柔軟で強力な問題解決アプローチを提供します。Harveyではエージェントを「計画を立て、適応し、人間と意味のある対話ができるモデルシステム」と定義しています。

4. ワークフロー(Workflow):目的志向の総合システム

「ワークフロー」は、1つまたは複数のエージェントで構成され、意味のある特定の成果物を共同で生み出すシステムです。訴状のレビューから申立書の起草まで、全体的な目標を定義し、その目標達成のために人間とエージェントの相互作用を可能にするインターフェースのセットを使用します。

「Assistant」ワークフローの導入

今回新たに、Harveyが導入するのは、「Assistant(アシスタント)」と呼ばれるワークフロー機能です。これは、ユーザーを実際の業務タスクを通じて積極的に導き、高品質な成果物を生み出すように設計されています。

初期段階では、取引業務、訴訟業務、金融サービス、その他の高いインパクトを持つユースケースにまたがる一連のワークフローが提供され、今後も顧客が一般的に行うタスクをサポートするために継続的に追加されていく予定です。

Assistantワークフローの主な利点は以下の通りです:

1. パーソナライズされた支援

ユーザーの専門分野に基づいて特定のワークフローが推奨されるため、タスクの実行がより効率的になります。個々の専門家のニーズに合わせたカスタマイズが自動的に行われるのが特徴です。

2. ガイド付きプロセス

ユーザーが詳細なクエリを作成する必要はなく、Harveyのエージェントがタスクの各ステップを積極的に案内します。必要なコンテキストを先回りして質問することで、ユーザーがプロンプトを考える負担を軽減します。

3. 透明性の確保

Assistantワークフローは「思考状態(thinking states)」を導入し、意思決定の過程やタスク実行の進捗状況をユーザーに見える形で提供します。この透明性によって、Harveyの推論と方法論への理解が深まります。

4. 専門家レベルの品質

各ワークフローは特定のユースケースに最適化され、ドメイン固有のAIモデルとカスタマイズされた引用要件を活用して、さらに高い精度を確保しています。各タスクに最適なモデルを使用し、構造化された一連のステップに従うことで、プロフェッショナルクラスの成果物をすぐに生成できます。

弁護士と比較した性能評価

専門家レベルの品質を保証するため、Harveyはワークフローの成果を人間の弁護士と直接比較するカスタム評価を導入しています。これらの評価は、通常1時間以上の弁護士の時間を要する一般的なタスクにおいて、ワークフローが人間レベルの品質の成果物を生成するかどうかを確立することを目的としています。

初期のベンチマークは以下の3つのタスクタイプをカバーしています:

1.構造化文書作成:定型的な法律文書の作成

2.非構造化文書作成と分析:自由形式の文書作成や分析

3.データ抽出と構造化:情報の整理と体系化

特筆すべきは、これらすべてのタスクタイプにおいて、Harveyのワークフローは人間の弁護士と同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮し、一般的な高価値タスクに費やす時間を大幅に削減できるという点です。

特に興味深いのは、法廷記録の分析など、より非構造化なタスクにおいて、Harveyは人間の弁護士のベースラインを上回る成果物を作成することが示された点です。弁護士の評価者は、ブラインドレビューにおいて一貫してHarveyの出力を好み、より深い分析、詳細さ、具体性があることを挙げています。これにより、弁護士はクライアントにより迅速かつ効果的に価値を提供することができるようになります。

サービス詳細https://www.harvey.ai/

より客観的なタスクと創造的なタスクでの性能

Harveyは、年表の作成や明確に定義されたテンプレートに基づく文書作成など、より客観的なタスクにおいて人間レベルのパフォーマンスを発揮し、これらのタスクを容易にして、エンドユーザーにはレビューと最終調整のみを残します。

一方、記録の分析などのより非構造化なタスクでは、Harveyは弁護士のベースラインを上回る成果物を作成します。弁護士の評価者は、ブラインドレビューにおいてHarveyの出力を一貫して好み、より深い分析、詳細さ、特異性を持つことを評価しています。

今後の展望

Assistantワークフローは3月末にHarveyで一般提供される予定です。これらのワークフローは、現在そして将来のHarveyが解決できる重要なユースケースを強調する役割も果たすことが期待されています。

Harveyは、より広範な専門的タスクをサポートするためにワークフローを継続的に拡大し、顧客からのフィードバックを取り入れ、エージェント機能を洗練させていく予定です。ワークフローを基盤として、エージェントはAssistant、Vault、およびプラットフォームの残りの部分全体に組み込まれ、専門家がより簡単かつ正確に複雑な作業に共同で取り組めるよう支援していきます。

AIエージェントがもたらす法律業務の未来

Harveyが導入するエージェント機能は、法律業務の未来に大きな変革をもたらす可能性があります。現在の法律実務では、弁護士は多くの時間を定型的な文書作成や情報分析に費やしていますが、AIエージェントがこれらのタスクを効率化することで、弁護士はより戦略的な思考や顧客との関係構築など、人間にしかできない高付加価値業務に集中できるようになります。

また、Harveyのエージェントは弁護士の「デジタルアシスタント」として機能し、リアルタイムで情報を提供したり、法的分析を支援したりすることで、弁護士の思考プロセスを拡張する役割も果たすでしょう。これは弁護士個人の能力向上だけでなく、法律事務所全体の生産性と競争力を高めることにもつながります。

将来的には、AIエージェントは法律実務のあらゆる側面に組み込まれ、弁護士と協力して複雑な法的問題を解決する「チームメンバー」となるかもしれません。しかし、最終的な判断や倫理的考慮事項は依然として人間の弁護士の領域であり続けるでしょう。

Harveyのエージェント機能は、AI技術と法律実務の融合における重要なマイルストーンであり、法律業界のデジタルトランスフォーメーションを加速させる触媒となる可能性を秘めています。

まとめ

Harveyが導入する次世代AIエージェント機能は、単なる自然言語処理モデルを超え、計画立案・適応・対話能力を備えた高度なシステムとして、法律専門家の業務をサポートします。特に注目すべきは、実際の法律業務において人間の弁護士と同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮できることが実証されている点です。

この技術の進化により、法律専門家は定型的・時間消費型のタスクから解放され、より複雑な法的問題の解決や戦略的アドバイスといった、真に人間の専門知識と判断力が求められる業務に集中できるようになるでしょう。

AIエージェントは人間の専門家に取って代わるのではなく、むしろ協働することで両者の強みを活かし、法律サービスの質と効率を高める可能性を秘めています。Harveyのエージェント機能は、AIと人間の協働による未来の専門職のあり方を示す重要な一歩と言えるでしょう。

【出典】