SalesforceとGoogleが戦略的パートナーシップを大幅に拡大し、AgentforceでGoogleのGeminiモデルが利用可能になります。この連携により、AIエージェントがマルチモーダル機能と200万トークンのコンテキストウィンドウを活用して複雑なタスクを処理できるようになるほか、Google Cloud上でのSalesforce製品の展開、Service CloudとGoogle Customer Engagement Suiteの統合強化など、企業が自社のニーズに合わせたAIソリューションを柔軟に選択できる環境が整います。急速に進化するAI市場において、企業に真の選択肢を提供するこのパートナーシップは、2兆ドル規模と見込まれる自律型AI市場における競争力強化を目指す企業にとって重要な意味を持ちます。
AIエージェント市場に新たな風、SalesforceとGoogleの戦略的連携が拡大
AIエージェントが企業のデジタル変革を加速させる中、選択肢の多様性とプラットフォームの柔軟性がかつてないほど重要になっています。こうした背景のもと、SalesforceとGoogleは、戦略的パートナーシップの大幅な拡大を発表しました。
この提携拡大の核心は、SalesforceのAIエージェントプラットフォーム「Agentforce」にGoogleの最先端AI「Gemini」を導入することです。これにより企業は、単一のモデルプロバイダーに縛られることなく、各社の固有ニーズに合わせたAIソリューションを柔軟に構築できるようになります。
「Google Cloudとのパートナーシップ拡大とプラットフォームやアプリケーション、インフラレイヤーの深い統合により、顧客が使用したいアプリケーションやモデルを選択できるようになります」と、Salesforceのプレジデント 兼 最高テクノロジー責任者(CTO) 兼 最高カスタマーサクセス責任者(CSO)であるスリニ・タラプラガダ氏は述べています。
また、Google CloudのCEOであるトマス・キュリアン氏は「SalesforceとGoogle Cloud間でよりシームレスに連携できるよう要望をいただいています。今回のパートナーシップ拡大により、自律型AIエージェント、最先端のAIモデル、データ分析などを活用したAI変革の加速を支援できることを嬉しく思います」とコメントしています。
2兆ドル市場を見据えた包括的AIエージェント戦略
Salesforceの調査によれば、自律型AIは2兆ドル規模の市場機会を創出しており、84%のCIOがAIはインターネットと同様にビジネスにとって重要になると考えています。両社のパートナーシップが目指すのは、この巨大な可能性を企業が最大限に活用できる環境の構築です。
そのカギとなるのが、「データ」「AI」「信頼性」「アクション」という4つの柱に基づいた包括的なアプローチです。
1.データ:シームレスで安全なデータアクセス
このパートナーシップでは、ゼロコピーアーキテクチャを活用し、データのレジデンシーに関わらず、すべてのデータへの高度に安全で統合されたアクセスを実現します。これにより、プラットフォーム全体のデータサイロが解消され、一貫性のある体験のために選択肢を犠牲にする必要がなくなります。
さらに注目すべきは、AgentforceがVertex AIを通じてGoogle検索を活用したグラウンディングが可能になる点です。これにより、AIエージェントは最新のデータ、ニュース、時事イベント、信頼性の高い引用を参照でき、より正確で裏付けのある回答を提供できるようになります。
例えば、サプライチェーン管理では、AgentforceのAIエージェントがSalesforce Commerce Cloudで出荷状況を追跡しながら、Google検索のリアルタイムデータ(天候、港湾の混雑状況、地政学的イベントなど)を活用して潜在的なリスクを事前に特定することが可能になります。この機能は今後数か月以内に提供開始される予定です。
2.AI:GeminiとAgentforceの統合がもたらす革新的機能
2025年内には、GoogleのGeminiモデルがAgentforce内で直接利用可能になります。この統合により、企業は以下のような革新的な機能を活用できるようになります。
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・マルチモーダル対応のAIエージェント
Geminiのネイティブなマルチモーダル機能により、AIエージェントは画像、音声、動画など多様なデータ形式を理解・処理できるようになります。例えば、エラーコードの画像を認識したり、音声から感情を検出したりといった高度な処理が可能になります。
・拡張された情報処理能力
Geminiの200万トークンのコンテキストウィンドウにより、AIエージェントはコードベース全体や長年にわたる顧客とのインタラクション履歴、製品ドキュメントなど、膨大な量の情報を保持・参照できるようになります。これにより、より複雑で文脈に即した対応が可能になります。
・高速・効率的な処理
GoogleのTensor Processing Units(TPU)と高度な技術の組み合わせにより、Geminiは非常に高速かつ効率的に情報を処理・理解し、複雑な問い合わせにもリアルタイムで応答することが可能になります。これにより、応答時間の短縮と運用コストの削減が期待できます。
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具体的な活用例として、保険金請求の処理が挙げられます。顧客が損害の写真や目撃者の音声メールを添付して保険金請求を行った場合、Geminiを活用したAgentforceはこれらすべての入力を処理し、請求の正当性を評価。さらに必要に応じてテキストを音声に変換して顧客に連絡することで、保険会社がより良い顧客体験を提供し、従来は長時間を要した保険金請求プロセスを合理化できるようになります。
3.信頼性:セキュアなプラットフォーム展開
このパートナーシップの重要な側面として、Google CloudのセキュアでAIに最適化されたインフラ上でSalesforceの統合プラットフォーム(Agentforce、Data Cloud、Customer 360)を活用できるようになる点が挙げられます。
これにより、顧客はEinstein Trust Layerが提供する動的グラウンディング、ゼロデータリテンション、有害性検出などの機能も利用しながら、高度なセキュリティを確保できます。さらに、Google Cloud Marketplaceを通じてSalesforceのサービスを調達できるようになり、グローバル企業にとって両社にまたがる投資を最適化する新たな可能性が開かれます。
業務効率化の次元を変える、プラットフォーム間の新たな連携
SalesforceとGoogle Cloudは、毎日何百万人ものユーザーに利用されていますが、このパートナーシップはプラットフォーム間のシームレスな連携を重視しています。Salesforce Service CloudとGoogle CloudのCustomer Engagement Suite、SlackとGoogle Workspaceといったプラットフォーム間の連携が強化されることで、AIエージェントとサービス担当者は統一されたデータアクセス、合理化されたワークフロー、高度なAI機能を活用できるようになります。
特にカスタマーサービス領域では、今年後半に予定されている統合により、Service CloudのAIエージェントに以下のような機能強化が実現します:
・リアルタイム音声翻訳とセンチメント分析:
Service Cloud内のGoogle Cloud AIにより、言語の壁を越えたリアルタイム音声翻訳が可能になります。さらに、音声のトーンやオーディオキューを分析し、より深い顧客インテリジェンスの理解を実現します。
・AIエージェント同士のインテリジェントな引き継ぎ:
すべてのチャネルで、Google Cloudの会話エージェントを基盤とする仮想エージェントが、Service CloudのAgentforceとシームレスに接続し、複数ステップにわたる顧客インタラクションをより効率的に管理できるようになります。
また、SlackとGoogle Workspaceの統合も検討されており、ユーザーがSlackのエンタープライズ検索を活用してGoogle ドライブ内のファイルにアクセスしたり、GmailとSlack間でより簡単に情報を共有したりできるようになる見込みです。
これらの統合により、従業員の生産性向上からカスタマーサービスの強化まで、業務ごとのニーズに最適なツールを選択しながら、プラットフォーム全体にわたるシームレスでインテリジェントな業務フローを確立できるようになります。
データ分析基盤の強化と将来展望
2025年中には、Data Cloud、BigQuery、Cortex Framework間のより深い統合が予定されており、企業データ全体をAIエージェントに安全にグラウンディングすることがさらに容易になります。また、新しいネイティブのTableau、Looker、BigQuery統合により、標準化されたビジネスロジックとデータ定義を使用して、すべてのプラットフォーム上のビジネスデータを一つのUIで管理・可視化できるようになります。
「Wayfairでは、データとAIを活用して卓越したカスタマーエクスペリエンス/顧客体験を創出することに深くコミットしています」と、WayfairのCTOであるフィオナ・タン氏は述べています。「SalesforceとGoogle Cloudのパートナーシップ、特にGoogle Cloudインフラ上でのSalesforceの可用性、およびAgentforceとGeminiの統合により、パーソナライズされた顧客対応を可能にする強力な新機能が提供され、当社のチームはより良い顧客サービスを提供できるようになります」
このパートナーシップは、単なる製品の統合を超えて、ビジネスのためにより一体感のあるインテリジェントなデータ基盤を企業に提供することを目指しています。SalesforceとGoogle Cloudは、継続的なイノベーションとより深いコラボレーションにコミットし、より強力なソリューションで企業のデジタル変革を加速させていく方針です。
まとめ
SalesforceとGoogleのパートナーシップ拡大は、AI技術の爆発的な進化と企業のデジタル変革ニーズが交差する重要な局面で発表されました。AgentforceへのGeminiの導入、Google Cloud上でのSalesforce製品の展開、Service CloudとGoogle Customer Engagement Suiteの統合強化などにより、企業は単一ベンダーに縛られることなく、自社のニーズに合わせたAIソリューションを柔軟に選択できるようになります。
このパートナーシップがもたらす主な利点は以下の通りです:
1.マルチモーダル対応のAIエージェントによる複雑なタスク処理
2.200万トークンのコンテキストウィンドウによる高度な情報分析
3.Google検索と連携したリアルタイムの情報提供
4.プラットフォーム間のシームレスな連携によるワークフロー効率化
5.セキュアなインフラ上での統合プラットフォーム展開
急速に進化するAI市場において、真の選択肢と柔軟性を提供するこの戦略的パートナーシップは、2兆ドル規模と見込まれる自律型AI市場での競争力強化を目指す企業にとって、重要な意味を持つでしょう。
両社のパートナーシップが目指すのは、AI技術の進化を企業の実質的な業務効率化と価値創造につなげることであり、その成果に今後も注目が集まります。